ひょうきん系認知症になった義父

高齢者あれこれ

義父は、とにかく口うるさくてすぐ怒る面倒臭い人でした。でも人生の最後に、なんだかとっても楽しい人になったんです。認知症になって怒りを手放した義父のお話です。

口うるさい義父

結婚してから義父には何かと嫌な思いをさせられてきました。とにかく細かい人でした。小さいことに口うるさくごちゃごちゃ言って怒ってくるので、帰省する度に腹が立って仕方がありませんでした。
例えば、
・食事中に義父の話に相づちを打つのを怠ると「ワシの話を聞け!」と机を叩いて怒る。
・蛇口の閉め方が固いと(固く閉めすぎるとパッキンが傷むとかで)注意してくる。
・電気をつける時間を指示してくる。
などなど、今思い出しても本当に色んなことを言われました。
とにかく細かいことを一日中ぶつぶつ言う人でした。夫の家族はよくこんな義父に我慢してきたなあと思いましたが、家族は諦めていたそうです。
夫曰く「何を言っても無駄だからオヤジをどうこうしようとする努力自体無駄である。だから、怒り出したら嵐が過ぎ去るのを待つ。それから、何も言われないように適当に距離を置くんだよ。」とのことでした。夫の家族は長年そうやってきたんでしょうが、結婚当初の私は夫の実家への帰省が苦痛で仕方ありませんでした。

そんな義父が…

そんな義父ですが、70代前半に変化が生じてきました。
私が初めて気づいたのは、車に乗せてもらっている時に信号を無視しかけた時です。その時は何事も起こらずにすみましたが、「お父さん信号赤です!」と言っても「そうか〜」とのんびりとした様子で答えるのです。その様子があまりにもフワッとしていたので、几帳面な義父にしてはおかしいなあと思いました。

その頃から義父は、以前ほどカリカリしなくなっていました。小さな物事にいちいち干渉しなくなり、力が抜けたような感じで、周りに対する怒りをあまり持たなくなったように見えました。とにかく私は怒られなくなりました。
義父はボーっとすることも増えて、色んなことが面倒臭くなってきたようでした。もちろんそばで世話をしている義母は「困ったんもんだわ」と言っていました。しかし私にとっては、いちいち文句を言われないとてもありがたい状況になったのでした。
認知症というと、物忘れがひどくなったり片付けができなくなったりと、何かができなくなっていくイメージを持たれている方が多いのではないでしょうか。義父は、こういった事に加え、人の粗を探して責めたり怒ったりすること、これができなくなったのです。

認知症になることが避けられないのなら

”認知症?困るなあ” ”自分が認知症になったら嫌だなあ、怖い”
と思っている方が多いと思います。でも老いは避けられない、衰えることは避けられないです。誰もが少しずつ弱っていく。少しずつできないことが増えていく。その衰え方が大きいか小さいかだけで、認知機能は少しずつ衰えていく。誰もが何かを手放しながら歳をとっていくのです。
どうせそうなるなら何を手放しましょう?妬み嫉み、卑下、後悔、意地悪い心、底知れない悲しみ、そんなものをもし手放せるとしたら、ちょっといいと思いませんか?義父の他者への怒りが消えたように何か重たいものを手放せるとしたら、ちょっといいなと思いませんか?

義父の写真を見ると思わず笑いが込み上げる

毎日義父の写真に向かって挨拶をするのですが、いつもなぜか笑ってしまいます。家族で思い出話をする時も、最後の義父の姿があまりにもひょうきんで可笑しくて、みんなつい笑ってしまうのです。
最後に義父に会いに行ったのは亡くなる数ヶ月前でした。「お父さん、はるこです」と声をかけると、おそらく私のことは分からなかったと思うのですが、「はーるちゃん。分かるぞ〜、覚えとる覚えとる」と、すごく調子のいいことを言うのです。それに話す言葉の最後になぜか、”すっとこどっこ”をつけるのでした。”すっとこどっこい”と言っても、特に怒っている風ではなく言葉の調子をとっているような言い方でした。
「どこも痛くはねーぞォ、すっとこどっこい」
「心配することはねーぞォ、すっとこどっこい」
みたいな感じでです。

義父のことだから怒ってたのかなあ。真意はわかりませんが、とにかくめちゃくちゃ陽気に答えてくれました。施設に面会に行った息子達と、とにかくみんなで笑いました。そもそも私は20年あまり「はるこさん」と呼ばれていたのに、「はるちゃん、はーるちゃん」なんて明るく呼ぶんです。いつも何か不服そうにしていた義父にはあり得ない変容ぶりでした。
「苦しくないですか?」と聞くと
「なんのことはねー。良くなったからもうじき帰るからな。ま、そーいうことよ。すっとこどっこい」
と言ってくれました。苦しみを訴えることなく明るく楽しそうにしていてくれることは、家族にとってありがたいことでした。昔、あれほど口うるさくいつも怒っていたのはなんだったんだろう。本当の義父は実はめちゃくちゃ面白い人で、それが義父の真の姿だったんだろうか。
人生の最期にひょうきん系認知症になったおかげで、私の中の義父の嫌な思い出は遠い遠いところへ行ってしまいました。

終わり良ければ全て良し

私も、義父のように思い出される度にみんなに笑いが込み上げてくるような、そんな人生の最後の姿を残したいものです。

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