祖母が人生で一番幸せだった事はなんだったのか、亡くなる少し前に話してくれたその意外な答え。その言葉に救われて、私は今生きているように思います。
なんとオムツの乾き具合!
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20年以上前のことです。祖母が亡くなる2,3ヶ月前の,もうかなり寝たきりになった頃のことです。
ふと聞いてみたくなって、
「ねえおばあちゃん、おばあちゃんが今までで一番幸せだと思ったのはどんな事だった?」
と聞くと
「天気がいいとねぇおむつがね、パリッと乾いてね、気持ちが良くてねぇ」
それが祖母の答えでした。
”え?洗濯物の乾き具合?”
100年近い人生を振り返って一番幸せだった思い出が、オムツが気持ち良く乾いたそんな何気ない日々の一コマだったのです。
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20年前にこの言葉を聞いた頃の私には、そんなことが幸せだとは到底理解できませんでした。
ところが、思ってもみないその祖母の答えに、それからの私は結構救われて来たのでした。
これさえあれば、幸せになれる
これさえ手に入れば人生がかわる
執着というのでしょうか、そんな強い欲求が湧き出た時に
『色んな欲しいものは手に入れた時、瞬間的に大きな喜びや高揚を与えてくれるけど、その喜びは時間が過ぎるとだんだん小さくなって、冷めて、数ある思い出の一つになって行く。それを手に入れても永遠に幸せになれるわけではないよ。
だから、たとえ手に入らなくてもそれほどがっくりすることもないよ』
と、祖母の声が聞こえるような気がするのです。
そして、歳を経るに従って物事への感じ方は変化し、悲しいことよりも嬉しい事があった時にそれを冷静に受けとるようになって来たように思います。
手に入らないことにガックリしない。
同時に、手に入った時も、ちょっと心に落とし蓋をするように控えめに喜ぶ、そんな風になってきました。
悪いこともいいことも、ただ過ぎ去っていく一コマ。全て流れていくのですから。
幸せは本意ではない人生の中にもある
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10代で親の決めた相手と結婚し戦争を体験し、人力車の時代から飛行機の時代まで目まぐるしい変化の時代を生きた祖母。
「もっと上の学校に行って、勉強したかった」
と、よく言っていました。結婚よりもしたいことがあったのだろうと思います。だから、私が結婚しても仕事を続けることを話した時、祖母は、
「よかったねえ」
と言いました。私は、致し方なく結婚退職せず働き続けることになったのですが、祖母は自分が家の中に閉じ込められたくない思いがずっとあったのでしょう。
だから、『よかったねえ』と心から言ったのです。
そんな祖母が、本意ではないその結婚生活の中に幸せだった瞬間があったと、人生の最後の方で語ったのです。私が意外に感じたのは、普段から聞いていた過去の悔やまれる思いとは相反する答えだったからなのもあるのです。
自分の思い描いていたものとはとは違う人生の中に、それも、日常のとても些細なことの中に幸せがあったと教えてくれた祖母。
『生きるって、そんなに難しいことではないよ』
そう言いたかったのかもしれません。
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